今朝の空気はキリッとしていたが、ポカポカの陽気も頬のあたりに感じられ、3月半ばのこの時期にふさわしい朝だった。
僕はいつもより少し早く家を出て、いつもの道を自転車で仕事場まで向かっていた。
しばらく行った頃、どこかから「カリブー」という声が聞こえたように思えた。
僕は首を注意深く曲げ、左斜め後ろを振り返った。
そこには引っ越しの業者さんが2人いて、声をかけ合って荷下ろしをしていただけだった。
「な~んだ、聞き間違えか~」
そう思って前を向き直したその瞬間、何かの存在を感じ、急ブレーキを踏んだが、ちょっと遅かった。
「痛っ」
「ごめんなさい!」
「もぅ~気をつけてよ」というような目でにらむ目を僕は知っていた。
その人は、元勤め先の同僚で、長い付き合いなのに僕のことを「カリブ」とは呼ばずに「置田」と呼ぶ数少ない人だ。
しかも昨晩の夢にも彼は出てきて、僕のことを「置田」と呼んでいたが、そのことを僕は夢の中で彼に問いただしていた。
「なんでカリブって呼ばないの?」
その答えはどうだったか、もう忘れたが、やはり今朝になっても彼は決まりを守ったままだった。
「なんだ、置田か! 危なっかしい運転するなよ~」
でも僕はその時、彼の目の中に、もう一人の彼の姿をくっきりと見ることが出来た。
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